キャリアアップ助成金の正社員化コースの流れ|申請ステップと注意点を解説
非正規で働く従業員を正社員に転換したいものの、キャリアアップ助成金の正社員化コースは手順が多く、どこから着手すべきか迷う経営者は少なくありません。
この制度は計画書の事前提出から転換、6か月間の賃金支払い、支給申請まで順番が定められており、一つでも順序を誤ると対象外になります。本記事では支給額や対象者、申請の流れ、つまずきやすい点までを段階的に整理します。
1. キャリアアップ助成金の正社員化コースとは?

1.1 制度の目的と正社員化コースの位置づけ
キャリアアップ助成金は、有期契約社員やパートなど非正規で働く人の待遇改善を後押しするために、厚生労働省が設けている制度です。企業が計画的に処遇を引き上げる取り組みを対象に、複数のコースが用意されています。
その中で正社員化コースは、非正規雇用の労働者を正規雇用へ転換した事業主を支援する区分にあたります。賃金体系の見直しや職業訓練を対象とする他のコースとは目的が分かれており、あくまで「雇用形態の転換」に着目した支援です。
人手不足のなかで人材を定着させたい中小企業にとって、正社員化コースは採用・定着の施策と助成を結び付けられる制度として位置づけられます。まずは全体像を押さえたうえで、自社の状況に合うかを判断していきましょう。
1.2 助成金は会社と従業員のどちらに支給されるのか
正社員化コースの助成金は、転換を実施した事業主に支給されます。転換された従業員本人の口座に直接振り込まれるものではありません。
この点は誤解されやすく、「正社員になった従業員がお金を受け取れる制度」と受け止められることがあります。実際には、非正規から正規への転換という雇用管理の改善に取り組んだ会社への支援であり、受給者はあくまで事業主です。
そのため、従業員に対して「助成金がもらえる」と説明するのは適切ではありません。会社が受け取った助成を、賃金の原資や職場環境の整備にどう生かすかは、経営判断として位置づけて考えていくことになります。
1.3 正社員化コースで対象になる転換のパターン
正社員化コースの対象になるのは、非正規で雇用していた労働者を正規雇用へ転換する取り組みです。転換前と転換後の雇用形態の組み合わせによって、対象になるかどうかが判断されます。
主な転換のパターンは次のとおりです。
有期雇用から正規雇用への転換
無期雇用から正規雇用への転換
派遣労働者を派遣先で正規雇用に転換
いずれの場合も、就業規則などに定めた制度に基づいて転換することが前提となります。自社で雇用している従業員がどのパターンに当てはまるかを最初に確認しておくと、その後の手続きの見通しが立てやすくなります。
2. キャリアアップ助成金の支給額と対象になる労働者

2.1 正社員化コースの支給額の目安(中小企業と大企業)
正社員化コースの支給額は、企業規模と対象者の区分によって変わります。
有期雇用から正規雇用へ転換した場合の目安は、次の表のとおりです。金額は制度改正で見直されることがあるため、申請時点の最新情報の確認が欠かせません。
対象者の区分 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
重点支援対象者 | 80万円(40万円×2期) | 60万円(30万円×2期) |
それ以外の対象者 | 40万円(1期・一括) | 30万円(1期・一括) |
表からわかるとおり、同じ転換でも対象者の区分によって支給額には差が生じます。重点支援対象者に当たるかどうかで金額が変わるため、まずは対象者がどちらの区分に入るのかを確認しておくことが、支給額の目安を把握する出発点になります。
中小企業か大企業かの区分は資本金や従業員数で判定されるため、自社がどちらに当たるかを先に確認しておくと計算がしやすくなります。
2.2 重点支援対象者とその他で変わる支給額
支給額を左右する大きな要素が、対象者が「重点支援対象者」に当たるかどうかです。同じ転換でも区分によって金額が倍近く変わるため、事前の確認が欠かせません。
重点支援対象者に該当すると、中小企業では有期から正規で80万円が目安となります。重点支援対象者には、雇入れから3年以上の有期雇用労働者、一定の職歴要件を満たす雇入れから3年未満の有期雇用労働者、派遣労働者、母子家庭の母等・父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者などが該当します
これに対し、重点支援対象者以外の場合は中小企業で40万円が目安となり、金額が抑えられます。転換したい従業員がどちらの区分に入るかで受給額が大きく変わるため、計画段階で見極めておくことが受給額の見通しに直結します。
変わるのは金額だけではありません。重点支援対象者は転換後6か月ごとに2期に分けて支給を受けられるのに対し、重点支援対象者以外は1期(一括)での支給となり、支給の回数にも違いがある点を押さえておきましょう。
2.3 正社員化コースの対象になる労働者の主な条件
正社員化コースは、どの従業員でも対象になるわけではありません。転換前の雇用実態や雇用保険の加入状況など、いくつかの条件を満たす必要があります。
対象になる労働者の主な条件は次のとおりです。
原則として、正規雇用労働者と賃金の額または計算方法が異なる雇用区分の就業規則等の適用を6か月以上受けて雇用されている
雇用保険の被保険者である
正社員転換日の前日から過去3年以内に、申請事業主や密接な関係の事業主で正規雇用労働者として雇用されていない
事業主と3親等以内の親族でない
これらの条件を一つでも満たさないと、転換しても支給対象になりません。転換を検討する段階で、対象者ごとに雇用期間や保険加入の状況を照合しておくことが、後戻りを防ぐ第一歩になります。
3. 正社員化コースの申請の流れと全体のステップ

3.1 キャリアアップ計画書の作成と事前提出(ステップ1)
正社員化コースで最初に行うのは、キャリアアップ計画書の作成と提出です。この計画書は、非正規労働者の処遇改善を計画的に進めるための全体像を示すものです。
具体的な手順は次のとおりです。
対象者・目標・取り組み内容を記載した計画書を作成する
転換を実施する日の前日までに管轄の労働局またはハローワークへ提出する
提出後に受理された計画に沿って取り組みを進める
計画期間は3年以上5年以下で設定します。計画書の提出は転換の前日までに済ませることが絶対条件であり、ここを逃すと後の手続きがすべて対象外になりかねません。着手の順番として最優先で押さえておきましょう。
3.2 就業規則への正社員転換制度の追加(ステップ2)
計画書の提出と並行して、就業規則に正社員転換制度を整備します。転換の制度が社内規程として定められていることが、助成金の前提になるためです。
就業規則には、どのような条件で非正規から正規へ転換するのか、その基準や手続きを明記します。転換の対象者、転換の時期、判断の方法といった項目を具体的に記載しておくことが求められます。
作成・変更した就業規則は従業員へ適切に周知する必要があります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準監督署への届出も必要です。
3.3 正社員への転換と転換後6か月間の賃金支払い(ステップ3)
計画と就業規則の準備が整ったら、規程に基づいて実際に正社員への転換を実施します。転換にあたっては、雇用契約書などで雇用形態が変わったことを明確にしておきます。
転換後は、正社員として6か月間の賃金を支払うことが要件となります。この6か月分の賃金を実際に支給し終えて、はじめて支給申請の対象期間が満了します。
賃金の支払いが遅れたり、対象期間の途中で退職が生じたりすると、要件を満たさなくなる場合があります。転換後の6か月間は、勤怠と賃金台帳を月ごとに確認しながら、記録を正確に残しておくことが大切です。
3.4 正社員化コースの支給申請と提出期限(ステップ4)
6か月分の賃金を支払い終えたら、いよいよ支給申請の段階です。期限が明確に定められているため、逆算した準備が欠かせません。
申請の手順は次のとおりです。
転換後6か月分の賃金を支払う
支払いが完了した日の翌日から2か月以内に支給申請書を提出する
重点支援対象者に該当する場合は、第1期の申請後、さらに6か月継続雇用・賃金支払いを行い、第2期の申請を行う
支給申請は賃金支払い後2か月以内という期限が設けられており、これを過ぎると受給できません。賃金台帳や出勤簿、就業規則など必要書類は、対象期間中から少しずつそろえておくと、期限内の提出に間に合わせやすくなります。
4. キャリアアップ助成金の支給要件で特に重要なポイント
4.1 転換後の賃金を3%以上増額する要件
正社員化コースでは、転換によって賃金が3%以上増額していることが要件になります。単に雇用形態を変えるだけでは足りず、処遇の改善が数字で確認できる必要があるためです。
比較の対象となるのは、転換前6か月と転換後6か月それぞれの賃金です。この2つを比べて、3%以上の増額が確認できることが求められます。
このとき、賞与や時間外手当などは比較の対象から除いて計算します。何を含めて何を除くかを取り違えると、増額したつもりでも要件を満たさない結果になりかねません。計算の対象範囲を最初に整理しておくことが、確実な受給につながります。
4.2 就業規則に定めが必要な転換制度と昇給・賞与
就業規則には、転換制度そのものだけでなく、正社員としての処遇に関わる定めも必要です。正規雇用にふさわしい待遇が制度として担保されているかが問われます。
就業規則で定めておきたい主な項目は次のとおりです。
転換制度:非正規から正規へ転換する基準と手続き
昇給:正社員に適用される昇給の定め
賞与または退職金:賞与か退職金いずれかの制度
これらの項目が規程に明記されていないと、実態として転換していても不支給と判断される場合があります。既存の就業規則を見直し、正社員に適用される制度が抜けていないかを一つずつ確認しておきましょう。
4.3 雇用保険の加入など正社員化コースの対象者の要件
対象者の要件は、転換のパターンだけでなく、雇用保険の加入状況や事業主との関係にも及びます。ここを満たさないと、他の要件を整えても支給対象から外れてしまいます。
正社員転換日以降、対象労働者を雇用保険の被保険者として適用させていることが必要です。加入手続きが漏れていると、期間の要件を満たしていても対象になりません。
また、事業主やその配偶者と3親等以内の親族にあたる人は対象外です。家族経営の中小企業では、この親族要件に気づかず進めてしまうケースもあります。対象者を選ぶ段階で、保険の加入と親族関係の両方を確認しておくことが欠かせません。
5. 正社員化コースの申請でつまずきやすい点と対策
5.1 計画の提出が転換後になり対象外となるケース
最も多いつまずきが、キャリアアップ計画書の提出が転換の後になってしまうケースです。計画は転換日の前日までに提出することが必須であり、後からでは対象になりません。
「先に正社員へ転換してから、まとめて助成金を申請しよう」と考えてしまうと、この順序を逆にしてしまいがちです。転換を実施した時点で計画が未提出だと、その従業員は支給対象から外れます。
対策としては、正社員化の話が具体化した段階で、まず計画書の提出を先に済ませることです。転換の予定日が決まったら、その前日を締め切りとして逆算し、書類準備のスケジュールを組んでおくとよいでしょう。
5.2 就業規則の記載不備でキャリアアップ助成金が不支給になる例
就業規則の記載不備も、不支給につながりやすい落とし穴です。制度を設けたつもりでも、書き方があいまいだと要件を満たさないと判断されることがあります。
『賞与の支給は会社業績による』など、賞与を支給することが明確でない規定は対象外となります。一方、『原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある』との規定だけを理由に直ちに不支給となるわけではありません。昇給や賞与の定めは、支給の条件や基準を具体的に示しておくことが求められます。
対策は、転換制度・昇給・賞与または退職金の各項目を過不足なく明記することです。就業規則を提出前に読み返し、正社員に適用される処遇が曖昧な表現で終わっていないかを点検しておきましょう。社会保険労務士による事前チェックも有効です。
5.3 賃金3%増額の計算で誤りやすい点
賃金の3%増額は、計算に含める手当の範囲を取り違えて誤りが生じやすい部分です。対象を正しく区分しないと、増額したつもりでも要件を満たさない結果になります。
計算の際に注意したい主な区分は次のとおりです。
含める:基本給や毎月定額で支給される諸手当
含めない:賞与など臨時に支払われるもの
含めない:時間外手当など労働時間で変動するもの
こうした区分を誤ると、増額率が実際より高く見えてしまうことがあります。転換前後の賃金を並べて、どの手当を計算に入れたかを明確にしておくことが、後の指摘を防ぐうえで欠かせません。
6. 竹内パートナーズ社労士事務所のキャリアアップ助成金サポート
6.1 労務と財務の両面からキャリアアップ助成金の申請を支える体制
正社員化コースは、就業規則の整備と賃金の計算という、労務と数字の両方が絡む手続きです。どちらか一方の知識だけでは、要件の見落としが起こりやすくなります。
竹内パートナーズ社労士事務所は、社会保険労務士と元銀行員という二つの経歴を持つ代表が、労務と財務の両面から申請を支えています。就業規則の定めから賃金増額の計算まで、要件を一つずつ確認しながら準備を進められる体制です。
はじめて助成金に取り組む中小企業でも、どの書類をいつ用意すべきかが整理されるため、本業と並行しながら申請を進めやすくなります。手続きの全体像が見える状態で取り組めることが、途中でのつまずきを減らすことにつながります。
6.2 顧問契約とスポット対応の両方に応じられる体制
助成金の相談では、「顧問契約を結ばないと依頼できないのでは」と感じて、問い合わせをためらう事業主もいます。竹内パートナーズ社労士事務所は、顧問契約に限らずスポットでの対応にも応じています。
継続的な労務管理をまとめて任せたい場合は顧問契約が向いています。一方で、正社員化コースの申請だけを依頼したいといった単発の相談にも対応できるため、必要な範囲に絞って支援を受けられます。
自社の状況に合わせて依頼の形を選べることで、まずは一つの助成金から相談してみるという入り方がしやすくなります。連絡はLINEなどのチャットツールでも受け付けており、はじめの一歩を踏み出しやすい窓口が用意されています。
6.3 こうした悩みを持つ事業主に向いているサポート
正社員化コースは魅力的な制度である一方、手続きの多さから着手をためらう声も少なくありません。
次のような悩みを抱える事業主には、専門家のサポートが特に役立ちます。
助成金の手続きが複雑で、どこから始めるか分からない
就業規則の整備や書類作成に割く時間がない
賃金要件の計算に不安があり、不支給が心配
こうした悩みがある場合、要件の確認や書類準備を任せることで、本業に集中しながら申請を進められます。制度を活用したい気持ちはあっても手が回らない、という状況こそ、外部の専門家を頼る価値があります。
7. 正社員化コースの流れに関するよくある質問
正社員化コースは手順が多いため、申請の順番や支給までの期間について疑問を持つ方が多くいます。ここでは特に相談の多い3つの質問に、これまでの内容を整理する形で答えます。判断や準備の参考にしてください。
7.1 質問1:正社員へ転換した後からでも申請できますか?
転換した後から計画書を提出して申請することはできません。キャリアアップ計画書は、正社員へ転換する日の前日までに提出することが必須の条件だからです。
順番としては、先に計画書と就業規則を整えてから転換を実施し、6か月間の賃金支払いを経て支給申請へ進みます。この順序が逆になると、すでに転換した従業員は対象外になってしまいます。
正社員化を検討し始めた段階で、まず計画書の提出を先に済ませておくことが確実です。転換の予定が決まったら、その前日を期限として準備を進めておきましょう。
7.2 質問2:正社員化コースは支給までにどれくらいの期間がかかりますか?
支給までには、転換の準備段階から数えて一定の期間がかかります。
目安として、次のような時系列で進みます。
転換前にキャリアアップ計画書と就業規則を提出する
正社員へ転換し、その後6か月間の賃金を支払う
支払い完了から2か月以内に支給申請を行う
労働局の審査を経て支給が決定する
転換後6か月の賃金支払いが要件になるため、少なくとも半年以上の期間を見込んでおく必要があります。審査に要する時間も加わるため、余裕を持ったスケジュールで臨むことが大切です。
7.3 質問3:正社員化コースの助成額は会社と従業員のどちらに支払われますか?
支給されるのは会社、つまり事業主です。従業員本人の口座に直接振り込まれるものではありません。
正社員化コースは、非正規から正規への転換という雇用管理の改善に取り組んだ企業を支援する制度です。そのため、受給の主体は転換を実施した事業主に限られます。
従業員に「助成金が受け取れる」と説明すると誤解を招きかねません。会社が受け取った助成をどう活用するかは、賃金や職場環境の整備を含めた経営判断として考えていくものです。
8. まとめ:キャリアアップ助成金の正社員化コースを計画的に進めよう
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、非正規の従業員を正社員へ転換する企業を支援する制度です。支給されるのは事業主であり、支給額は企業規模と重点支援対象者かどうかで変わります。
手続きは、キャリアアップ計画書の事前提出、就業規則への転換制度の追加、転換と6か月間の賃金支払い、支給申請という順序で進みます。計画書は転換の前日までに提出することや、賃金を3%以上増額することなど、外せない要件を一つずつ満たしていく必要があります。
順番を誤ると対象外になる制度だからこそ、着手の前に全体像を把握し、計画的に準備を進めることが受給への近道です。就業規則の整備や賃金計算に不安がある場合は、労務と財務の両面から支援できる専門家に早めに相談し、無理のない形で申請を進めていきましょう。
正社員化コースの手続きに迷ったら竹内パートナーズ社労士事務所へ
竹内パートナーズ社労士事務所は、社会保険労務士と元銀行員の経歴を持つ代表が、労務と財務の両面から正社員化コースの申請を支えます。顧問契約に限らずスポットでの相談にも応じており、LINEなどのチャットツールから気軽に問い合わせられます。
就業規則の整備や賃金要件の計算に不安がある方も、まずは自社の状況を伝えるところから相談を始めてみませんか。
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